まさおまっさお

思ったことを書き残す所だよ

     

白い服の、シミ

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Photo credit: CJS*64 "Man with a camera" via Visual hunt / CC BY-ND

 

 

昨日の話。

 

 

昨日の関東は暖かかった。

 

北海道出身で汗かきの私は、今年はじめての半袖出勤にチャレンジしていた。

 

しかし、それ以外は至っていつもの通りだ。

 

家を出て駅まで歩き、ホームについたら電車にのり、2駅先にある仕事場まで、いつもと変わらずスマホを触って過ごすだけ。

 

 

そんなありきたりの朝のはずだった。

 

 

 

白い服の女性

 

 

電車を待ち、満員の車内に押し込まれると、私の目の前には一人の女性が居た。

 

 

 

目の前と言っても、真正面ではない。

 

私は痴漢冤罪が怖くて、女性の真後ろには絶対に立たないようにしている。

 

だからその時の私は、彼女の右後ろに居た。

 

丁度私の左目が、女性の右肩の後ろに来ている状態だ。

 

 

 

彼女は両手でスマホを持ち、一心不乱にアクション系のソシャゲをやっていた。

 

 

 

 

ただのゲーム好きの女性。

 

 

 

 

しかし私はそこで、衝撃的なものを目にする。

 

 

 

 

彼女が来ていたのは白い服。

 

上がってきた気温に合わせ、荒い網目の涼しげなデザインでありながら、まだ若干肌寒さの残る夜にも耐えられそうなしっかりした素材の生地でできている。

 

まさに、今の季節にピッタリの服装だ。

 

だが、衝撃を受けたのはそこではない。

 

 

 

 

私の正面にある彼女の肩。

 

 

 

 

 

そこには、なんと、シミがあった。

 

 

 

 

 

大きさでいうと、丁度1円玉くらいの、丸くて大きめのシミ。

 

そしてその見た目は、どこかで見覚えのあるような、そんな色をしていた。

 

一体私は、これをどこで見たのだろうか。

 

 

 

 

・・・そうだ。

 

人生で一度は、絶対に誰でもやってしまった経験がある、あれだ。

 

 

 

 

 

 

醤油。

 

 

醤油のシミ。

 

 

 

多分これは、醤油のシミだ。

 

この人が醤油を日常的に使うのかどうかは知らないが、そんな無知で可哀想な私から見ても、周りにいるどんな人間から見ても明らかに、醤油。

 

 

 

黒い液体が白い布に染みこむ。

 

すぐにティッシュで吸い取るも、完全には抜け切らない。

 

家に帰り、急いで水につけ、漂白剤を使って洗濯してみたところで、真っ白な生地についた模様が消えることは二度となかった。

 

そんな経験を、皆さんもお持ちだろう。

 

 

 

その模様が、彼女の右肩にはついていた。

 

 

 

私は思った。

 

きっと、この人は独身なんだろう。

だから家に帰っても、誰も自分の服について物申してくれない。

 

どこかの飲み会で後ろの人に醤油を付けられたけど、自分では気づいていないのだ。

 

 

 

可哀想に。

 

 

 

私が忠告してあげたいけど、知らない人から突然そんなことを告げられても困惑してしまうだろう。

 

でも心配はいらない。彼女が会社に行き、憧れの男性社員と出会ってしまうその前に、仲の良い同僚の女性に指摘して貰って気づくことができるはずだ。

 

 

 

きっとそうだ。

 

 

そうなることを祈っておこう。

 

 

 

と、そんなことを考えていた私は、シミを見ているだけで次の駅に着いてしまった。

 

この駅では普段、あまり人が降りない。

でも昨日はたまたま、私の横に降りる人が居た。

 

だから私は少し動き、その人に道を空けてあげた。

 

その少しの移動が、私にさらなる衝撃を与えるとはつゆ知らず。

 

 

 

人の乗り降りが終わり、電車が発車する直前。

 

私はさっきの、白い服を着た女性の左後ろに立っていた。

 

 

 

先ほどとは逆の位置になり、私の右目が彼女の左肩を見ている状態。

 

これでもう、さっきのシミが気になることはない。

 

 

 

 

 

と思っていた矢先、私の目に飛び込んできたものは、予想とは全く逆の結果だった。

 

 

 

 

 

 

左右対称の、シミ

 

 

左右対称。

 

 

 

その言葉がとてもしっくりくるくらい、どこかで見た形のシミ。

 

 

 

そう、これはさっき、私が彼女の右肩で見たものと全く同じだった。

 

肩口からの距離も大きさも、左右の位置が逆なだけで全く一緒。

 

そんなシミが、こちら側にもついていた。

 

 

 

 

私は思った。

 

 

さっきまで自分は、なんと恥ずかしいことを考えていたのだろう。

 

これは白い服ではなくて、少し柄の入った、オシャレな服だったのだ。

 

右と左の肩の上には、日本特有の、味が濃くてしょっぱい調味料が落ちなかった時のような柄が入っているけど、これはシミなんかではない。

 

正当な、服の柄だ。

 

それもきっと、どこかの有名なデザイナーが遊び心で入れた、大人の柄。

 

 

 

昔からある、ヒョウ柄だってそうだろう。

 

黄色の生地に黒い斑点がついている。

 

あれと同じだ。

 

 

 

そう。

 

これはオシャレなのだ。

 

 

 

間違っていたのは私で、彼女はただ、憧れの男性社員の気を引こうと必死におめかししていただけ。

 

私が流行に乗り遅れていたことが原因で、そんな素敵な女性の服装を、大変失礼なことに「可哀想」などと見下してしまうところだった。

 

 

 

気をつけよう。

 

今度からは、不用意に他人の服装を疑わないよう、心がけなくてはいけない。

 

そう心に誓った私は、少し安心して目を逸らした。

 

 

 

 

 

 

その瞬間。

 

 

 

 

 

 

跳ねてる

 

 

私の目に飛び込んできたのは、他の場所に飾られた、丸い模様・・・ではなかった。

 

 

 

なんとそこには、液体が跳ねて飛び散ったような、三角形のような水玉のような、なんともいえない造形をした、さっきと同じ色の模様がついていた。

 

 

 

 

これはさすがに、やりすぎじゃないだろうか。

 

いくらオシャレだとしても、これじゃあどう見ても、あれにしか見えない。

 

誰がどう見ても、発酵した豆をふんだんに使った、食事に欠かせない、さしすせそのうちの1つが、飛び散って付着したような服の柄。

 

 

 

 

でも、本当の芸術というものは、その時代を生きる人間には理解しがたいものだ。

 

かの有名なゴッホだって、その絵が評価されたのは亡くなったずっと後だった。

 

だから良い。良いんだ。

 

私は何一つ間違ってなどいない。

 

ただ この女性と、この服をデザインした、人間界でもトップに君臨するようなイカしたデザイナー様が、周囲よりも少しだけ遠い未来の時代を生きているだけなのだ。

 

私は、悪くない。

 

そして彼女たちだって、何も悪くはないんだ。

 

 

 

 

そんな言い訳を考えていると、ついに電車は私の降りる駅に到着した。

 

いつも夢中になる、はてなブログを見る暇など一切なく。

 

ただ女性の肩を見てあれこれ妄想しているうちに、2駅も移動してしまったのだ。

 

 

 

私は耐え難い疑念にどうにか耐えながら、たまたま同じ駅で降車していく様子の、その女性の後を追うようにして外に出た。

 

満員で押し込まれていた車内とは違い、彼女の全身が初めて見える。

 

 

 

 

そこで私の目に入ってきたのは、肩周りについた3つの模様以外はとても綺麗な、まるで新品のように白く美しい、彼女の上着だった。

 

 

 

 

どっちだ。

 

わからない。

 

でもきっと、私のセンスが原因だ。

 

いやでも、もしかして・・・・・・

 

 

 

そんな葛藤を繰り返しているうちに、彼女はホームの逆側へと歩いていき、私は女性と一言も言葉を交わすことができないまま、別れを告げることになってしまった。

 

 

 

 

気になる。

 

すごく気になる。

 

彼女があれから、会社に行ってどんな目で見られるのか。

 

そしてあの柄は、どんなモチーフで、誰が、どんな思いを込めて作ったのか。

 

あの服はどれくらい、今の世の中で流行っているのか。

 

もしかしてこれから先、似たような柄の服が沢山出てくるのだろうか。

 

 

 

 

様々な疑問が晴れぬまま、この件は私の脳内にわだかまりだけを残していった。 

 

 

 

 

きっとこの先、私が彼女と同じ電車、同じ車両に乗り合わせる確率は少ない。

 

そしてもし、万が一同じ車両になることがあったとしても、彼女がまた同じ服を来ている可能性は極めて薄いと考えられる。

 

なぜなら、あれだけの存在感を放ち、オシャレの最先端を生きているようなファッションモンスターが、そんな短期間で同じ服を何度も着回すわけがないからだ。

 

 

 

 

だからきっと、あの素敵な服を来たあの女性と出逢う機会は、もう一生やってこないだろう。

 

 

 

 

 

でも、もし。

 

もし、あの女性とまた出逢うことができたなら。

 

 

 

 

 

 

その時私は勇気を持って、こう尋ねてみようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「その醤油、どこのメーカーのですか?」

 

 

 

 

 

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